EasyUs【Class0040.00】

-Killer Queen-
Queen(1974-10-11)

「ねえ、あの人のお尻エロくない?」
那音がそう言って、サイドカーを飲んでいる女を指す。
兄さんは、バラライカを吹き出しそうになりながら、慌ててグラスをカウンターに置いた。
「確かに。」
「あの人がこの間言ってた同業者の美人。今日は美人の方に反応して。」
「ああいうお尻、好きでしょ?」
「大好物だ。」
「よし、行ってこい。ほら、カミカゼ。」
那音は兄さんからバラライカを取り上げると、ロックグラスに氷を入れて、それに注ぎなおした。
「特攻してこいってか。」
「御武運を。」
「骨は拾ってくれ。」

「うまくいくかな?」
サイドカーとカミカゼのグラスを合わせている二人を眺めながら、那音はグラスを拭いている。
「うまくいって欲しい?」
那音の言っていたあの人は兄さんだと思っていた僕は、那音が兄さんを他の女にけしかけるのが少し意外で探りを入れる。
「あの二人って、お似合いだと思わない?同業者だし。そろそろ自分がしあわせになること考えた方が良いと思うの。
二人ともいっつも、こうなったらこういう人がしあわせになるよねって話ばっかりしてる。そのくせ自分はいつも元気がない。」
「那音が兄さんをしあわせにするんじゃないの?」
「そうできればいいんだけど、私のちっこい胸じゃ、気休めにしかならないから。あの人のお尻ってさ、なんかこう

“She’s a Killer Queen
Gunpowder, chocolate
Dynamite with a laser beam”

Killer Queen-Queen(1974-10-11) ※歌詞の一部に誤りがあります chocolate⇒gelatineが正しい

って感じじゃない?私なら絶対元気出る。同業者だし、絶対お似合い。」
那音は自分に言い聞かせるみたいにKiller Queenを口ずさんだ。
「チョコレートじゃなくてゼラチンじゃなかったっけ?」
「あのお姉さんああみえて、実は優しいから、ミルクチョコレートっぽくない?ちょっとだけビターな奴。」

わたしは兄さんと初めて会った日のことを思い出していた。
「那音でーす。よろしくお願いしまーす。何飲まれます?」
女の子が横に座って飲む方のクラブで私が働いていたころの話だ。兄さんは上司に連れてこられたらしく、しぶしぶという感じで座っていた。
「お姉さんにお任せします。」
「うれしー。じゃあシャンパン。」
「ええっと、お姉さん。いきなり?」
「冗談冗談、お兄さんは普段何飲まれるんですか?」
「バラライカとか…」
それからしばらくして、兄さんは頻繁にわたしに通ってくれるようになった。
「お姉さん、少し愚痴を聞いてくれる?」
「お姉さん、ちょっとだけいいことがあったんだ。」
そう言って私のところに足蹴く通ってくれていた。

照れくさいのか、私のことをちっとも名前で呼んでくれないものだから、
「お兄さん、わたしのこと那音って呼んでくれないと全然親しくなった感じがしない。」
そう言って文句を言った日のことはよく覚えている。
「人の名前を覚えるのが苦手なんだ。それならせめて、もう少し親しみを込めて、姐さんって呼ぶことにするよ。」
「なによそれは、私の方が絶対に年下なんだから、姐さんはなくない?」
「そこはほら、リスペクトをこめてというか、尊敬しているという意味で。それにお嬢さんとか、お嬢様って呼ぶのも少し変な気がする。」
兄さんは少しうろたえて言い訳をしていた。
「じゃあ、わたしも親しみと尊敬をこめて、お兄さんじゃなくて兄さんって呼ぶことにするね。」
そんな会話をしたことを覚えている。

ある日のことだ、
「ねえ、兄さん聞いてくれる?わたし、少し気になる人がいて、でもその人はわたしのこと。どう思っているのかわからなくて、どうすればいいかわからないの。」
わたしの言葉に兄さんはわたしが飲んでいたバラライカをロックグラスに移し替えて、
「ほらこうすると、即席だけど、カミカゼってカクテルに変わる。よくわからないけど、姐さんがしたいようにすればいいんじゃないかな。
当たって砕けたって、それはそれ、骨は俺が拾って供養してやるよ。」
「なにそれ、当たって砕けて弱った女の子を狙ってる?」
「少しね。」
「兄さんはなんでわたしに通ってくれているの?」
「下心かな。それは冗談として、姐さんのちっこい胸をチラ見すると少し元気が出るんだ。」
「下心じゃない。」
「ええっと、姐さんに話すと元気が出るんだ。姐さんに話していると急に考えがまとまったりするんだ。ミヒャエル・エンデのモモって小説の主人公のモモって女の子は、人の話をじっと聞くんだ。そうすると、話していた相手はいい考えが浮かんだり、自分の意思がはっきりしたりする。姐さんもそんな感じ。」
「姐さんはじっと聞いてはいないけど、でもそんな感じなんだ。」


「那音ちゃん。サイドカーもう一つちょうだい。」
サイドカーの女が那音のところにやってきてオーダーして、那音の前に座りなおす。
兄さんは女の横に座っている。
「この人を私にけしかけたでしょ。ありがと、もう一押しでわたし、この人の助手席に乗ることになると思うわ。」
「だから、カミカゼ、今度は即席カミカゼ、バラライカのロックスタイルじゃなくて、ちゃんとライムジュースのやつで。」
サイドカーとカミカゼが並んでいる。二人は乾杯して、女は一息にあおると、立ち上がった。
「じゃあ、次いきましょうか。」
「かしこまったお嬢。」
兄さんは慌ててカミカゼを飲み干して立ち上がって、少しおどけてそう言った。

“Recommended at the price
Insatiable an appetite
Wanna try?
You wanna try”

-Killer Queen-Queen(1974-10-11)

サイドカーの女はそう歌いながら、兄さんと街に消えた。
兄さんはいきなり尻にしかれていた。

カミカゼ
 ウオッカ 20ml
 ホワイトキュラソー 20ml
 ライムジュース 20ml
 シェイクして氷を入れたオールド・ファッションド・グラスに注いでステア

曲を聴く:YouTube Queen – Killer Queen (Top Of The Pops, 1974)