-東京は夜の7時-
ピチカート・ファイヴ(1993-12-01)
「シャンディガフ。那音ちゃんも何か飲む?」
随分早い時間にお嬢が登場した。
「じゃあ、シャーリー・テンプル。ジンジャエール使い切っちゃいます。」
「真面目ちゃん?」
「お嬢こそ。サイドカーじゃなくていいの?」
「あの人が来たら飲むわ。」
時計を見るとまだ夜の七時。
“トーキョーは夜の七時
-東京は夜の7時-ピチカート・ファイヴ(1993-12-01)
あなたに逢いに行くのに
朝からドレスアップした
一晩中愛されたい
トーキョーは夜の7時”
わたしはそう口ずさみながら、お嬢のシャンディガフとグラスを合わせる。「兄さんと待ち合わせですか?」
「その曲って、待ち合わせのレストランはもうつぶれて無くなってた。って歌じゃなかった?いいの?」
お嬢は照れ隠しなのかそんな言葉を口にした。
「もうつぶれてると思っていたレストランが、つぶれてなくてよかったなあって歌じゃないんですか?」
今日もエロいケツしておる。なんて考えながらわたしはシャーリー・テンプルで口を湿らせた。
「兄さんとうまくいってます?テクニックは披露したんですか?」
照れ隠しで逃げようなんて。直球で仕留めにかかる。逃がさぬ。
「しらふでしゃべれって?あの人の弱いところ色々教えてくれる?」
「しらふじゃないと喋れませんよ。それに私は兄さんの弱いところって、ショットガンで撃たれると死ぬってぐらいしか知りませんよ。ショットガンかけてゲームすると、一発飲ませたらとたんに弱くなるから、何でも言うこと聞かせられます。」
「あら、右のわき腹が弱点なのは知っていたけど、そんな弱点があったとは。」
「炭酸で酔うって言ってました。ビールもあんまり得意じゃないみたい。今度、右のわき腹つついてみよう。」
「そうしてあげて、喜ぶわよ。それより、あの子はもう那音ちゃんにアタックしてくれたの?」
「全然。ところであの曲って、これから会うのに、もうつぶれて無くなってるお店を待ち合わせ場所にしたら会えなくなりません?」
今度はわたしが話をそらす。
「まだなんにも?つぶれて無くなってるお店を待ち合わせにしちゃう貴方もかわいい。早くあなたに逢いたい。って感じじゃない?あの子、そういう抜けたこと、しそうじゃない?かわいい。」
「まだなんにも。兄さんは頼れるって感じですか?」
「まさか。どっちかというとかわいいわよ。知ってるでしょ?」
お嬢は”お腹がすいて死にそうなの”と歌ってブルスケッタをオーダーした。
「放っておくと、タブレットばっかりで、ご飯食べないですからねぇ。」
わたしは、スプーンに残ったトマトを味見した。
「那音ちゃんのお口にはちょっと頼りがいがありすぎるかもだけどね。」
「ほうらんですか?見たことないから。」
スプーンをくわえたまま喋ってしまった。
「私の口にはちょうどいいサイズよ。本当に知らなかったんだ。」
お嬢は少し安心したような顔をして、わたしの耳元で。
「あの子のは那音ちゃんにちょうど良さそうじゃない?」
そう囁いた。スプーンがシンクに落ちた。
「そういえば、あの子名前なんて言うの?」
「あれ?知らないや。」
「そこから?二十歳と46か月のプレゼントはもらったのに?」
お嬢はそう言って私のグラスを指さす。
「それ、誕生日プレゼントで、専用のグラスにしてるでしょ。他のお客さんには使わないじゃない。」
切子で魚が描いてあるこのロックグラスは、誕生日プレゼントだってくれた。
「あの子の蜘蛛がJudeだから、かわいい坊やってことで、Dickってどう?」
「ちっちゃなディックって?ひどくない?ちっこそうですけど。」
扉が開いた。
「あらディックいらっしゃい。まずはちっこいグラスでショットガンを一発、那音ちゃんやっちゃえ。」
きょとんとしているディックに「バーン」わたしはショットガンを滑らせた。
“トーキョーは夜の七時
-東京は夜の7時-ピチカート・ファイヴ(1993-12-01)
噓みたいに輝く街
とても淋しいだから早くあなたに逢いたい”
シャンディガフ
ビール 100ml
ジンジャエール 100ml
よく冷やしたグラスにジンジャエールを注ぎ、ビールで満たす。
シャーリー・テンプル
グレナデンシロップ 20ml
ジンジャエール 130ml
レモン 1切
氷を入れたコリンズグラスにグレナデンシロップを注ぎ、
ジンジャエールでビルドアップレモンを絞り入れ、軽くステア。
ショットガン
テキーラ 15ml
炭酸水 15ml
ショットグラスにテキーラを注ぎ、炭酸水で満たす。
コースターをグラスにかぶせ、 飲み手自身が飲む直前に、グラスでテーブルをたたくようにして炭酸を一気にいきわたらせて一息に飲む。
