-他人の関係-
金井克子(1973-03-21)
兄さんがカウンターの上にロックグラスを三つ並べて何かを作っている。
ゴッドマザー、ゴッドファーザー、フレンチ・コネクション
お嬢にゴッドファーザーを手渡して、
「多分、姐さんが飲んでたのはこれだ。」
そう言ってフレンチ・コネクションを僕に滑らせる。いつの間に洗ったのか、切子の魚が息を吹き返していた。
「兄さんがゴッドファーザーじゃなくていいの?」
そう呟くお嬢に「そいつのカクテル言葉は偉大だから、俺には似合わんよ。」
「それを言うなら、無償の愛も似合わないわよ。」
「それもそうか。」
そう言ってお嬢とグラスを交換した。
「フレンチ・コネクションは?」
僕がグラスに手を付けずに訊くと、
「妄想力豊かな不思議な世界の住人。」
兄さんはそう言いながら、グラスを自分に引き寄せて飲み干した。
「それと、秘めた心もフレンチ・コネクション。」
空になった切子の魚のグラスにお嬢がグラスを合わせて、ゴッドマザーを口にした。
「少し深入りしすぎたかな。」
“逢うときには いつでも他人の二人
-他人の関係-金井克子(1973-03-21)
気ままと気まま そして大人と大人”
兄さんがそう歌って、ゴッドファーザーで唇を湿らせた。
“逢う度いつも 違う口づけをして
-他人の関係-金井克子(1973-03-21)
おどろきあう その気分
そうよ はじめての顔でおたがいに
またも 燃えるの”
「深入り?私に?それとも那音ちゃんに?」
お嬢が兄さんの歌の続きを引き取って続けた。
「姐さんってさ、ああ見えて、人と関わるのが怖いんだよ。分かってたんだけど…。お嬢との関係が照れくさくて、ディックに甘えた。」
「自分の罪悪感をディックで償ってた?」
「正直に言うと、そうだ。ディックすまん。」
「ついでに、お前のグラス飲んじまった。すまん。」
「他人じゃないけど他人ぐらいの距離感じゃないとダメな子なのかもね。もうすぐ誕生日だっていうのに、何処に行ったのかしら。」
お嬢がつぶやく後ろで兄さんが、シェーカーを振っている。
「おそれることのない元気な冒険者に戻れるか?」
そう言って僕の前にジャックローズを置いた。
ドアにつけた鈴がチリンと鳴って誰かが入ってきた。
「ごめんなさい、今日は営業してないの。」
お嬢が振り返ってそう言いかけて固まっている。
そこには那音が立っていた。
那音はカウンターに歩み寄って、「兄さん、そのカルバドス、限定品の物凄くいいやつなんだよ。ちょっとづつ飲んでたのに、勝手に使って。」ぷりぷり怒りながら、書きかけのメニューに気がついて、素早く丸めてポケットに隠して、床を見つめている。
那音は床を見つめたままで黙っている。
僕とお嬢は、耐えきれずに那音に声をかけた。
「いやなことあった?」
那音は首を横に振る。
「兄さんが私と仲良くするのが気に入らない?」
那音は首を横に振る。
「逃げ出したい?」
那音は首を横に振る。
「兄さんがとられたみたいでさみしい?」
那音は首を横に振る。
「ディックと仲良くなりすぎるのが怖い?」
那音は首を横に振る。
“逢うときには いつでも他人の二人
-他人の関係-金井克子(1973-03-21)
気ままと気まま そして大人と大人”
「嘘つき、もっと子供でいいのに」兄さんがそう呟いて、最後にこう聞いた。
「特別を作るのが怖い?」
那音は頷いた。
ゴッドマザー
ウォッカ 45ml
アマレット 15ml
材料をオールド・ファッションド・グラスに入れ、
氷を入れて軽く混ぜる。
ゴッドファーザー
スコッチウイスキー 45ml
アマレット 15ml
材料をオールド・ファッションド・グラスに入れ、
氷を入れて軽く混ぜる。
ジャックローズ
カルバドス 30ml
ライムジュース 15ml
グレナデンシロップ 15ml
材料をシェイクして、カクテルグラスに注ぐ
