EasyUs【Class0040.20】

-One More Time-
Daft Punk(2000-11-13)

「とりあえずビールで」
私は兄さんがよく行くという居酒屋の奥の壁際に座っている。
「お嬢は何にする?」
「私もとりあえずビールで。」
「じゃあ、とりあえず、改めて乾杯。」
「とりあえず私を誘ってくれたのは良いけど、どうする?」
「いい店だろ、とりあえず。」
とりあえずという名前のその居酒屋は、確かにいい店だった。カウンターだけの小さな店の奥の棚には焼酎のボトルが並んでいて、大ぶりの皿に筑前煮が盛られている。その隣は、イワシの梅煮だろうか。

「とりあえず行こうか?」というからどこに行くのかと思ったらここに来た。
「いつもとりあえずで女の子誘っているの?」
「いつも、まあ、たまに……。」
「それで、とりあえずでホテルに行くわけね。那音ちゃん公認で。」
「ああ、そこは、大体玉砕するかな。あいつ、姐さんもそこはわかってるんじゃないかな。」
兄さんは、とりあえず出てきた枝豆をかじっている。私はメニューを眺めている。
「シマアジと、鱧の湯引き、それからそこのイワシの梅煮。あとは板わさ。それと、クジラのボトルをロックで。他には?」
メニューを見ることなく兄さんは注文した。
「じゃあ、とりあえず、だし巻き卵。それと鍛高譚水割り。」

「こんにちは、あそこの姐さん。那音から同業だって聞いたんだけど。バベルのコード書いてる?」兄さんはそう言って私に声をかけてきた。
「ちょっと見せて。」そう言って、私のパソコンをのぞき込み「ああ。」とつぶやいて、キーボードを叩いて、いくつかの文字を削除した。
「or条件は少ない方が通りやすい。バベルって、具体的な方が良いんだ。昔俺もそれでずいぶん失敗した。勝手に触ってごめん。」

名前を尋ねると、兄さんは兄さんと呼ばれてるって名乗るものだから、「新しいに井戸の井でにいさん?それとも新しく出るとか?」と聞いてしまった。
「いや、俺があそこの、那音を姐さんって呼ぶせいで、姐さんが俺のとこと兄さんって呼び始めて、それからもう兄さんって呼ばれるようになった。」
「師匠に、姐さんに、兄さんか、変な店ね。私の蜘蛛も隊長って呼ぼうかと思っているの。」
「それは良い、俺も自分の蜘蛛のことは教授って呼んでる。それで、お姉さんのことは何て呼べばいい?」
「ええっと、お嬢様。とか?」
「OKお嬢。これからよろしく。」
兄さんはそう言ってほほ笑んで、握手を求めてきた。

店内には小さくDaft PunkのOne More Timeが流れていた。
「和食の居酒屋にしては珍しい曲をかけるのね。」
「ああここの店主、実は趣味で踊る方のクラブでたまにDJしてるんだ。」
「ねえ、少し踊りに行かない?そこでもう一杯、カミカゼを飲んで私にアタックしてみない?」
「ショットガンの打ち合いにならなきゃいいけど…。」

“Don’t stop the dancing
One more time”

-One More Time-Daft Punk(2000-11-13)

耳の奥に小さく昨日のリズムが流れている。私たちはマクドナルドのコーヒーセットを挟んで朝日に目を細めている。兄さんは、コーヒーの蓋を取るとブラックで啜った。
「もらっていい?」
私は兄さんのトレーからミルクのポーションを奪って、自分のと合わせて二つ、コーヒーに注いだ。

緩く渦を巻いているミルクを眺めながら口に運ぶ。
ソファーに反り返って伸びをすると兄さんもつられて、首を鳴らしている。
「昨日はごちそう様。」
「大したものじゃなくて申し訳ない。」
「久しぶりに朝まで楽しかった。今日は仕事はあんまり進まないわね。」
「こっちも。」
「それじゃ。」
「じゃあまた、LiFeで。」


後日

「ブロウジョブを二つ」
兄さんが聞きなれないカクテルを注文した。
那音はバラライカを作りかけた手を止めて顔を赤らめた。
「いいけど、裏に行く?」

「違う違う、カクテルの方。」
「二つ?」
「そう、二つ。もうすぐ来る。」

お嬢がすぐにあらわれて、兄さんはお嬢にショットグラスを滑らせた。
「なにこれ?」
「ブロウジョブ、昨日酔っぱらって上手だって自慢してたじゃないか。競争しよう。」
ショットグラスを口で咥えて一息に飲む二人を那音は唖然としてみている。二人ともすこしもこぼさずに飲み干すと、「じゃあ、とりあえず行こうか。」そう言って消えていった。

二人はどうやらうまくいったようだ。僕と那音は顔を見合わせて、二人でブロウジョブに挑戦してみたけれど、全部顔にかかって笑い転げた。

“Don’t stop the dancing
One more time”

-One More Time-Daft Punk(2000-11-13)

ブロウジョブ
 1)コーヒー・リキュール 15ml
 2)ベイリーズ      15ml
 3)生クリーム/ホイップ・クリーム 少量
 材料を1から順に層になるようにショットグラスに注ぎ入れる。
 飲むときは手を使わず、口だけでグラスを咥えて飲むのが正式。

曲を聴く:Daft Punk – One More Time (Official Video)