-Truly Madly Deeply-
Savage Garden(1997-03-03)
私の指先で先生がじゃれている。私はそれを見つめながら先生のことを思い出していた。
「はじめまして瑠那です。」
「よろしくお願いします。」
先生は少し緊張しているのか、なかなか靴を脱ごうとしなかった。私は先生のジャケットを脱がせてハンガーにかける。そのまま先生の手を取ってベッドに座らせて、横に座った。
「こういうお店、よく来るんですか?」
「まあたまに。」
私がワンピースの背中のチャックを下ろすのに手こずっていると、先生はそれを下げてくれながらそう答えた。たまにという事とすんなりとチャックを下ろしてくれるその手つきは、それなりにくるということだ。
リピートをつかむチャンスの匂いを感じていた。
こういうお店、つまり風俗店で働いているとだんだんわかってくる。
たまにという客程よく来るのだ。それも一人に熱心に。いつもという客は全然来ない。
事実、それから先生は時々通ってくれた。
「お仕事、何してる人ですか?」
「まあ、研究というか、実験というか、工学屋です。」
先生は、自分の得意分野の話になると急に饒舌になった。私はそれを聞きながら先生のシャツのボタンを外している。
「ナノマシンと、カーボンナノチューブを組み合わせて、軌道エレベータが作れないかって、試行錯誤してます。」
「軌道エレベータができたら、宇宙空間で太陽光発電して地球にエネルギーを持ってこれるはずなんです。そうすれば世界中のエネルギー問題は解決するし、もし、宇宙空間に藻類の培養プラントを作ることができたら、食糧問題と温室効果ガスの問題も解決するはずなんです。」
私は何のことかさっぱりわからなくて、
「研究って、大学とかで?」
「そんな感じです。」
「じゃあ先生だ。すごい。」
先生のズボンのベルトを緩めて全部脱がせる。
「じゃあ、先生って呼んでいい?シャワー浴びましょ。」
先生の手を引いて、私も全部脱ぎながらシャワーに案内した。
「カーボンナノチューブって、すごい材料なんです。強くて切れない。軌道エレベーターを作るとしたらこの素材しかないはずなんです。だから、蜘蛛みたいなナノマシンでカーボンナノチューブの糸を作ることができて、それを編み上げて月まで届く一本の糸になったら、月の質量を振り子のエネルギーにして起動エレベータに使えると思ってそれを研究してます。」
先生は相変わらずしゃべり続けている。
「じゃあ、実現できたらノーベル賞だ。」
「それどころか、世界征服できちゃうかもしれません。」
「なら、今のうちに世界の王様にご奉仕させて。エッチいことしましょう。」
私は先生に軽くキスして、先生の性器を口に含んでブロウジョブを始めた。
「ねえ、先生はどうして私を指名してくれたの?」
いつものように先生をフェラチオでいかせた後で聞いたことがある。
「瑠那って名前が、ルナって、月って意味じゃないですか。だから、僕の研究と一致してて、運命を感じたんです。だから月の出ていない夜はさみしくて、会いに来てしまうんです。」
「瑠那って月って意味だったんだぁ。知らなかった。やっぱり先生賢い。」
部屋の電話が三回鳴った。
私はあわてて先生に服を着せながら、事務所に電話を返す。先生は靴を履いている。
「瑠那さん今日はこれで終わりです。お疲れ様です。」
「は~い、お客様お帰りです。」
「先生、今日この後。暇?」
「帰って寝るだけですけど。」
「飲みに行かない?」
本当に気まぐれで、私は先生を誘った。
それからも先生は相変わらず私を指名してくれていたが、先生から外に誘われることはなかった。私の方から先生を誘うと少しうれしそうにして、いつも深夜1時15分のコンビニで待ち合わせをして、少しお酒を飲んでからラーメンを食べて帰る関係が続いた。
「瑠那さんって、何かしたいことあるんですか?」
「したいこと?」
「叶えたい、夢みたいな。」
「うーん、いつかオーロラを見たいかなあ。北極に行って、寝袋にくるまりながら、オーロラが出てくるのを待つの。きっと寒いから先生、一緒に寝袋に入ってくれる?」
「いいですね。いつか叶えましょう。」
「ちょっと難しいかも。先生には私よりももっと賢くてかわいらしい人が似合うと思う。」
「東京でもオーロラ見えたらいいのにね。仕事の帰りにオーロラが見えたら、ちょっとだけ元気が出ると思わない?」
私はそう言って、ラーメン屋のぬるくなったお冷を飲んだことを覚えている。先生も遠くを見つめながらお冷を飲んでいた。
「いつか、オーロラを見に行きましょう。」それから先生は何度もその言葉を口にした。
「先生はお店の私しか見ていないから、そんなことを言うのよ。私みたいな女よりも絶対に、もっと賢くてかわいい子としあわせになるべきだって。」
それは私の本心だったし、お客さんに深入りしすぎてしまったことへの後悔だった。
お店ではわたしは先生の100点が取れるように一生懸命だったけれど、先生の人生の中でずっと100点をとることはできない。私が先生をしあわせにしてあげられるわけがない。先生にぼろを見せるのが私は怖かった。
私のことだ。いつか先生にぼろを見せるに決まっている。
店内にはTruly Madly Deeplyが流れている。
“I’ll be your dream, I’ll be your wish, I’ll be your fantasy.
-Truly Madly Deeply-Savage Garden(1997-03-03)
I’ll be your hope, I’ll be your love, be everything that you need.
I love you more with every breath, truly madly deeply do.”
先生は曲に合わせて口ずさんで、「瑠那さんの望むことは何でもしてあげたいんです。」とつぶやいて、「一緒にオーロラを見に行きましょう」と言っている。
私はそれをなだめて先生に水を飲ませている。
「ほら、お水飲んで。酔っぱらっちゃった?」
店内には相変わらず曲が流れている
“I want to stand with you on a mountain.”
「一緒にオーロラを見に行きましょう」
それからしばらくして、私は店をやめて、それきり先生と会うことはなかった。
私の指先で先生がじゃれている。私はそれを見つめながら先生のことを思い出していた。
指先でグラスのふちをなぞる。
氷で冷えたグラスの曇りは雫になって、すうっと流れた。
透明に透き通った雫の跡の向こうで、
氷山みたいな氷がカシャリと鳴った。
小さな北極みたいなコップの中に夕日が差し込んで、
オーロラみたいな虹ができていた。
私の指先で先生がじゃれている。私はそれを見つめながら先生のことを思い出していた。
ナチュラルウォーター
水 200ml
コリンズグラスにクラッシュアイスを詰め水でビルドアップ
曲を聴く:YouTube Savage Garden – Truly Madly Deeply (Official Video)
