-タイムマシンにおねがい-
サディスティック・ミカ・バンド(1974-10-05)
僕がボイラーメーカーに胸を焼かれていると、ふいに天井の明かりがチカチカと明滅して、ふっとあたりが暗くなった。LiFeは地下なものだから、完全に暗くて、出入り口の蓄光塗料がぼんやりと見えるだけだ。
「そういえば、新しい電池入れるの忘れてた。師匠取ってきてくれる?」
「確かちょうど俺の家のやつ買えようと思ってて、持ってる。取りに行かなくていいからこれ使え。ああくそ、暗くてカバンが分からん。」
「ディック暗いからって那音ちゃんの胸とか触ろうとしないの。でもってそれは那音ちゃんの胸じゃなくて私の胸よ。」
「あ、いや、なにもしてませんって。」
「じゃあ、この手は兄さん?あとで直接、いくらでも触らせておげるわよ。」
「俺も何もしてない。」
「あ、ごめんなさいわたしです。ライター持ってましたよね?」
「あるけど。」
お嬢がライターの火をつけるとぼんやりとした明かりが灯った。
那音がグラスにウオッカを注いで、お嬢がその上にライターを滑らせると、アルコールの燃える炎がじんわりあたりを照らす。
「ああ、あった。」
兄さんがカバンからライターサイズの電池を取り出してカウンターに置くと師匠がそれを持ち上げてどこかへもっていく。ほどなく店内の照明が元に戻った。
カウンターの上には古い電池が置かれていて、その周りで師匠と教授、隊長とJudeがそれを取り囲んで晩餐会を開いている。電池はみるみるなくなっていき、蜘蛛たちのエネルギーに変換されていく。
那音が黒ビールをグラスに注いで僕の方に滑らせる。
「アイリッシュバックファイヤーでございます。」
そう言って火がついたままのウオッカをビールグラスに流しいれた。
「今日はそういう飲み物の日か…。それにしてもウオッカ多くなかった?」
僕はそれを口に運んで「炎つながりで那音にはB-52」をオーダーした。
「電池の交換って、つい忘れるのよね。1年以上もつから…」
B-52の炎が消えるのを見つめて待ちながら、那音がつぶやいた。
「それにしてもこの電池って、なんでできてるんですかね?このサイズで1年以上もつって。」
「ああ、これ、中に光の粒が入ってるんだ。光子ってやつ。衛星軌道で充電されてちょびっと重くなってるらしい。」
僕の疑問に兄さんが即座に答えてくれた。
「ちょびっと重いって、1gとか?」
「1gも重くなったらこれ一個で多分、ちょっとしたことで街が丸ごと一個消滅するぞ。気がつくわけない。」
「光子が重くなるってことは、中の光子は光速で動いてないってこと?」
お嬢が疑問を口にするが、僕は何のことだかさっぱりわからない。
「さあ?詳しいことはわからない。もしかしたらむしろ光速より早く動いてるんじゃないか?なんにせよ、こいつがあちこちのポストに置いてあるのを勝手に持っていけば、家の電気も車の充電も要らないってことだよ。もしかしたら、この電池の中の光子は時間を超えてるかもな」
兄さんが何を言っているのか、僕は何のことだかさっぱりわからない。ただ電池が便利でいつでも手に入るという事だけはわかる。
「中の光子は、時間を止めてるかもよ。」
“好きな時代に行けるわ
-タイムマシンにおねがい-サディスティック・ミカ・バンド(1974-10-05)
時間の螺旋をひと飛び
タイムマシンにお願い”
お嬢が口ずさんで「やり直せるならいつからやり直したい?」そう口にした。
「中学生の頃だな。あの時が俺のモテ期だった。間違いない。」
兄さんが即答する。
「あら、初体験は大学に入ってからだって言ってなかった?」
「そうだが、今思えば中学生時代はチャンスの数が段違いだったんだよ。一つもモノにできなかったけど…、戻って全部モノにしてやろうと思う。今はチャンスがない。」
「今でも十分モテてるわよ。」
お嬢がサイドカーで唇を湿らせながら兄さんの腕をつねる。
「お嬢は?確か初体験は高校の時だって言ってただろ?やっぱり高校生に戻りたい?」
「高校の時には戻りたくないかしら。行く先々にストーカーがいる世界に戻りたいと思う?それよりディックは?戻れるならいつに戻りたい?」
ピロ―トークの暴露大会になりかけているのを悟った様子で、お嬢が僕に水を向ける。
「小学生の頃ですかね。あの頃は悩みなんてなくて、何も考えなくても毎日楽しかった気がする。」
「わたしは、小学生の頃にだけは戻りたくないなぁ。」
那音がB52の上で揺れている炎を吹き消して、少し遠い目をした。グラスのふちを指でなぞってグラスが冷めるのを待っている。
「わたしは今がいいかな。今だってこう、生きていくのは師匠が助けてくれるから、何の心配もしなくていいし。それに、こうやって…」
“さあ無邪気な夢のはずむすてきな時代へ
-タイムマシンにおねがい-サディスティック・ミカ・バンド(1974-10-05)
ああタップダンスと恋とシネマの明け暮れ
きらめく黄金時代はミンクをまとった娘が
ボギーのソフトにいかれて
デュセンバーグを夢見るアハハン”
「みんなでこうやってバカバカしい話をして酔っぱらってるのって最高じゃない?」
那音は言葉を少し濁してそう歌うと、B52をひといきにあおると、にかっという感じで笑ってみせた。
アイリッシュ・バックファイアー
ウオッカ 30ml
クレーム・ド・カシス 1tsp
黒ビール 適量
ショットグラスにクレーム・ド・カシス、ウオッカを注ぐ。
ビールグラスに黒ビールを適量注ぐ。
ショットグラスのウォッカに火をつけ、火がついたままビールに流し込む。
B−52
コーヒー・リキュール 20ml
ベイリーズ 20ml
グラン・マルニエ 20ml
ショットグラスにプースカフェスタイルで
コーヒーリキュール、ベイリーズ、グラン・マルニエの順に層になるように注ぐ。
最後にグラン・マルニエに火をつける。
曲を聴く:YouTube ROLLY/タイムマシンにおねがい(full version)※原曲公式ではなくROLLY様のカバーバージョンです
